修繕費と資本的支出の見分け方 — 国税庁の判定フローで確認

賃貸物件に工事をしたとき、その代金をその年の修繕費として一括で経費にできるのか、それとも資本的支出として減価償却するのか。判断を間違えると、その年の不動産所得が大きく変わります。

この判定には国税庁が公表しているフロー図があり、テストを適用する順番が決まっています。順番を無視して「60万円未満だから修繕費」と決めてしまうと、答えが変わってしまいます。ここでは通達の条文に沿って、正しい順序で確認します。

やりがちな失敗

よくある間違いは3つ。①「60万円未満なら修繕費」と単独のルールとして使う — これは金額の性質が「資本的支出か修繕費か明らかでない」場合にだけ使える基準です。②20万円未満のテストを後回しにする — 実は最初に判定します。③「原状回復だから修繕費」と考える — 通達でいう原状回復は災害等で損傷した場合の話で、入居者退去時の復旧とは別の枠です。

大原則 — 名目ではなく実質で判定する

国税庁は「修繕費と資本的支出の区別は、修繕や改良という名目によるのではなく、その実質によって判定します」としています。請求書の但し書きが「修繕工事」でも、それだけでは決まりません。

法令上の資本的支出は、所得税法施行令181条で①その資産の使用可能期間を延長させる部分、②その資産の価額を増加させる部分と定められています(両方に当たるときは、いずれか多い金額)。

判定の順序 — 上から順に当てはめる

国税庁のフロー図に沿った順序です。上のステップで決まったら、そこで終わりです。

  1. その修理・改良等の金額が20万円未満か → 該当すれば修繕費にできます(所基通37-12)。この基準は「明らかに資本的支出」の例示にかかわらず適用できると通達に明記されています。
  2. おおむね3年以内の周期で行われるものか(既往の実績等から明らかな場合)→ 該当すれば修繕費(所基通37-12)。定期的な塗装や設備更新などが想定されています。
  3. 明らかに価値を高める、または耐久性を増すものか → 該当すれば資本的支出(所基通37-10)。
  4. 通常の維持管理のためのものか → 該当すれば修繕費(所基通37-11)。入居者退去後の一般的な清掃・軽微な補修などはここです。
  5. 災害等で損傷した資産を原状に復するためのものか → 該当すれば修繕費(所基通37-11)。ここは災害等の場合の枠であり、通常の退去時復旧は前のステップで判断します。
  6. ここまでで決まらない(=資本的支出か修繕費か明らかでない)場合のみ、金額基準を使います。60万円未満またはその資産の前年12月31日における取得価額のおおむね10%以下なら修繕費にできます(所基通37-13)。
  7. それでも決まらない場合は、実質により判定します。

数値の条件は正確に読んでください。20万円と60万円は「満たない」(未満)、10%は「以下」です。

なお、ここまでで決まらない金額について、通達は2つの区分の方法を認めています。どちらも「こうしなければならない」ルールではなく、その区分で計算して確定申告をしているときに認められる選択肢です。①災害により損壊した資産について、原状回復のために支出した部分とその他の部分に区分することが困難なときは、費用の額の30%相当額を原状回復(修繕費)の部分とし、残余の額を資本的支出の部分とすることができます(所基通37-14の2。その損壊による損失について雑損控除の適用を受ける場合を除きます)。②それ以外で資本的支出か修繕費か明らかでない金額については、継続して適用することを条件に、その金額の30%相当額と、その資産の前年12月31日における取得価額の10%相当額とのいずれか少ない金額を修繕費とし、残余の額を資本的支出とすることができます(所基通37-14)。

資本的支出になる例

なお建物の増築は資本的支出ではなく、建物の取得として扱われます。取得なら耐用年数の考え方が関わります(減価償却の記事を参照)。

修繕費になる例

この判定は物件の規模で変わるか — 変わりません

判定に用いる資本的支出の規定(所得税法施行令181条)および所基通37-10〜37-14の2は、いずれも「業務の用に供されている固定資産」を対象としています。「業務」は「事業」より広く、事業的規模でない賃貸も含みます。国税庁が挙げる事業的規模との相違点(資産損失・貸倒損失・専従者給与・青色申告特別控除の4項目)にも、修繕費の判定は入っていません。1室のオーナーでも同じ基準です。事業的規模で変わる点は青色申告の記事で整理しています。

損する / 得するサイン

次に当てはまるなら、判定を見直す価値があります。

こうすればOK

  1. 工事の請求書を、工事ごと・一の計画ごとの金額に分けて把握する。
  2. 上の順序で上から当てはめる。決まったところで止める。
  3. 金額基準(60万円・10%)は、性質が明らかでない場合にだけ使う。
  4. 判断が分かれそうな工事は、見積書・仕様書を根拠として保管し、迷う場合は税理士または所轄の税務署に確認する。

この記事の根拠(一次情報)

内容数値・ルール出典時点
判定の大原則名目ではなく実質により判定する国税庁 No.1379令和7年4月1日現在
資本的支出の法令上の定義①使用可能期間を延長させる部分 ②価額を増加させる部分(両方に当たるときはいずれか多い金額)e-Gov 所得税法施行令181条現行
少額基準(第1ステップ)一の修理・改良等が20万円に満たないとき修繕費として可(37-10にかかわらず適用)所得税基本通達 37-122024年11月25日
周期基準(第2ステップ)おおむね3年以内の周期で行われることが既往の実績等から明らかなとき修繕費として可所得税基本通達 37-122024年11月25日
明らかな資本的支出価値を高め、または耐久性を増すこととなると認められる部分所得税基本通達 37-102024年11月25日
明らかな修繕費通常の維持管理のため/災害等によりき損した資産の原状回復部分所得税基本通達 37-112024年11月25日
形式基準(明らかでない場合のみ)60万円に満たない、または前年12月31日における取得価額のおおむね10%相当額以下所得税基本通達 37-132024年11月25日
災害の場合の原状回復の特例(認められる区分)区分が困難なときは、費用の額の30%相当額を原状回復のために支出した部分の額とし、残余の額を資本的支出の部分の額とすることができる(雑損控除の適用を受ける場合を除く)所得税基本通達 37-14の22024年11月25日
区分の特例(継続適用が条件・認められる区分)明らかでない金額について、その金額の30%相当額と前年12月31日における取得価額の10%相当額とのいずれか少ない金額を修繕費、残余の額を資本的支出とする区分を認める所得税基本通達 37-142024年11月25日
増築の扱い建物の増築・構築物の拡張延長等は資本的支出ではなく取得に当たる所得税基本通達 37-10(注)2024年11月25日
事業的規模との関係差異なし(所令181・所基通37-10〜37-14の2は「業務」ベース。No.1373の相違点4項目に修繕費の判定は含まれない)国税庁 No.1373令和7年4月1日現在

工事の請求書をアップロードすれば、修繕費か資本的支出かの判断材料と、経費への影響を整理できます。

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本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務相談ではありません。 具体的な判断は税理士または所轄の税務署にご確認ください。(令和8年7月時点の情報です)