土地の借入金利子は損益通算できない — 措置法41条の4の落とし穴

賃貸の赤字を給与と損益通算して還付を受ける——この計算で見落とされやすい制限があります。赤字のうち土地を取得するための借入金利子に相当する部分は、損益通算できません(租税特別措置法41条の4)。

物件価格に占める土地の割合が大きい物件をローンで買った場合、この制限だけで還付見込みが大きく変わります。一方で、負債を建物に優先して充てたものとして計算できる特例もあり、こちらは知らないと損をします。両方を条文で確認します。

やりがちな失敗

ありがちな失敗は還付額を土地利子込みで見積もること。赤字の全額が給与と相殺できる前提で計算すると、実際の還付は目安より小さくなります。逆に、建物優先の特例を知らずに土地・建物へ機械的に按分してしまうのも損です。特例には要件があり、当てはまるなら使わない理由がありません。

何が制限されるのか — 条文の書き方に注意

措置法41条の4第1項は、不動産所得の計算上生じた損失のうち、必要経費に算入した土地等を取得するために要した負債の利子に相当する部分として政令で計算した金額を、「生じなかつたものとみなす」と定めています。

ここは正確に理解する価値があります。この規定は不動産所得の金額そのものを増やすわけではありません。損失の「使い道」——損益通算——を封じる規定です(所得税法69条1項その他の適用について、と条文が限定しています)。平成4年分以後の各年分に適用されます。

いくら封じられるのか — 上限は損失額

措置法施行令26条の6第1項が計算方法を定めています。

つまり封じられるのは「損失額」と「土地利子」の小さい方までで、この規定が所得を生み出すことはありません。

⭐ 建物に優先して充てられる特例(施行令26条の6第2項)

知られていない、しかも有利な規定です。土地等をその上の建物(附属設備を含む)とともに取得した場合で、負債の額を資産ごとに区分することが困難なときは、負債はまず建物の取得対価に充てられ、次に土地等の取得対価に充てられたものとして計算できます。建物に先に充てれば、土地に対応する負債=封じられる利子が小さくなります。

ただし要件が具体的です。次のすべてを満たす必要があります。

  1. 土地等を、その上に建築された建物とともに取得したこと
  2. 一の契約により同一の者から譲り受けたこと
  3. 負債の額が資産ごとに区分されていない等の事情により、資産の別に負債額を区分することが困難であること
  4. 「計算することができる」——選択適用であること

要件2に注意してください。土地を買って建物を新築した場合は建物を譲り受けていないため対象外です。土地と建物を別の売主から買った場合、契約が別々の場合も外れます。

なお、建物とともに構築物も取得した場合、構築物の取得対価は建物の取得対価に含めて差し支えないとされています(措置法通達41の4-2)。

土地利子の計算式

この特例を使う場合の土地等の負債利子は、必要経費に算入した建物・土地等の負債利子の総額に、総負債額のうち土地等の取得対価に充てられたものとされる負債額の割合を乗じて計算します(措置法通達41の4-3)。

前提として建物の取得対価の額が必要です。売買契約書で土地と建物の価額が分かれていない場合、この規定のための価額の分け方について国税庁は方法を示していません。譲渡所得の計算で使われる「建物の標準的な建築価額表」は、その表自身が譲渡所得向けと明記しており、ここに流用できる根拠はありません。一括金額しかない場合は、税理士または所轄の税務署にご相談ください。

自宅と賃貸が同じ建物のとき(併用建物)

業務の用とそれ以外の用に併用する建物を土地等とともに取得した場合は、建物・土地等の取得対価と負債額を業務の遂行のために必要な部分とそれ以外に区分した上で、その業務部分について上の特例を適用します(措置法通達41の4-1)。区分の方法は通達に定められていませんので、区分の根拠は自分で説明できる形にしておく必要があります。

繰越にも効いてきます

この制限は純損失の繰越にも影響します。封じられた部分は損益通算の段階で「生じなかったもの」とされるため、通算後に残る純損失(所得税法2条1項25号)自体が既に小さくなっており、所得税法70条1項で繰り越せるのはその減額後の金額です。繰越を当て込むときは、土地利子分を引いた後の金額で考えてください。

申告書のどこに書くのか

青色申告決算書(不動産所得用)の1ページ目、所得金額欄の直下に「土地等を取得するために要した負債の利子の額」という欄があります(白色の収支内訳書にも同名の欄があります)。所得金額が赤字でこの欄に金額がある場合、申告書第一表の不動産所得欄には0と記入し、赤字額がこの欄の金額より大きいときは差額に△を付けて記入します。記入する金額の頭部には○不と表示します。

なお第四表(損失申告用)にはこの欄がありません。第一表で調整済みの金額を受ける構造です。また申告書第二表には個人事業税のための「損益通算の特例適用前の不動産所得」欄があります。これらの欄の位置は令和7年分の様式に基づく説明です(令和8年分の様式は未公表)。

似た名前の規定と混同しないために

物件の規模で変わるか

条文は「不動産所得を生ずべき業務の用に供する土地」を対象としています。「業務」は「事業」より広い概念で、条文に事業的規模の要件や青色・白色の区別はありません。1室のオーナーにも同じように適用されます(条文の文言に基づく整理です)。

損する / 得するサイン

次に当てはまるなら、還付見込みを見直す価値があります。

こうすればOK

  1. 売買契約書で、土地と建物の価額および借入の内容を確認する。
  2. 一の契約・同一の売主で、負債額が資産ごとに区分されていないなら、建物優先の特例の適用を検討する。
  3. 土地に対応する負債利子を計算し、損失額と比べて封じられる金額を出す。
  4. 一括金額しかない場合や併用建物の場合は、区分の根拠を用意し、税理士または税務署に相談する。

この記事の根拠(一次情報)

内容数値・ルール出典時点
制限の根拠不動産所得の損失のうち土地等取得の負債利子相当額は「生じなかつたものとみなす」(平成4年分以後)e-Gov 租税特別措置法41条の4第1項令和8年法律第12号による改正後(施行 2026年6月25日)
適用対象「不動産所得を生ずべき業務の用に供する土地」— 条文に事業的規模の要件はないe-Gov 租税特別措置法41条の4第1項同上
封じられる金額の上限利子額>損失額なら損失額全額/利子額≦損失額ならその利子相当額e-Gov 措置法施行令26条の6第1項令和8年政令第98号による改正後(施行 2026年5月22日)
建物優先充当の特例負債はまず建物の取得対価、次に土地等の取得対価に充てられたものとして計算できるe-Gov 措置法施行令26条の6第2項同上
同特例の要件①建物とともに土地等を取得 ②一の契約により同一の者から譲受 ③資産の別に負債額の区分が困難 ④選択適用e-Gov 措置法施行令26条の6第2項同上
土地利子の計算式総利子 ×(土地等の取得対価に充てられたものとされる負債額 ÷ 総負債額)措置法通達 41の4-3平3課所4-8追加・平7課所4-2改正
併用建物取得対価と負債額を業務遂行に必要な部分とそれ以外に区分した上で適用(区分方法の定めはない)措置法通達 41の4-1同上
構築物の扱い構築物の取得対価は建物の取得対価に含めて差し支えない措置法通達 41の4-2同上
純損失の繰越への影響排除は損益通算の前に行われるため、繰り越せる純損失も既に減額後の金額e-Gov 所得税法2条1項25号・70条1項現行
記載欄(青色)青色申告決算書(不動産所得用)1ページ目、所得金額欄の直下「土地等を取得するために要した負債の利子の額」国税庁 青色申告決算書(不動産所得用)令和7年分様式(令和8年分未公表)
第一表への記入不動産所得欄に0(赤字額が利子額より大きいときは差額に△)、頭部に○不を表示国税庁 青色申告決算書(不動産所得用)の書き方令和7年10月1日現在の法令等
41条の4の2との違い特定組合員等の不動産所得に係る損益通算等の特例(組合契約・信託)e-Gov 租税特別措置法41条の4の2現行
41条の4の3との違い国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の特例(償却費相当分・令和3年以後)e-Gov 租税特別措置法41条の4の3現行

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本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務相談ではありません。 具体的な判断は税理士または所轄の税務署にご確認ください。(令和8年7月時点の情報です)