赤字でも確定申告すべき理由と、その代わりに背負うもの
不動産所得が赤字の年は、給与を1か所から受けて年末調整が済んでいて給与収入が2,000万円以下といった条件を満たす人であれば、給与以外の所得が20万円を超えないため確定申告の義務は生じません(条件の詳細は申告義務の記事で確認してください)。ただし義務がないことと、申告しない方が得なことは別です。
申告すれば、損益通算で源泉徴収済みの所得税が戻り、使い切れない赤字は翌年以降に繰り越せます。一方で、繰越しを使うならその後も申告を続ける義務的な流れに入るという側面もあります。片側だけ見ずに、両方を確認しましょう。
やりがちな失敗
危ないのは「赤字だから何もしなくていい」で終わらせること。還付は申告しなければ1円も発生しません。逆に繰越しを当て込んでおいて、翌年に申告を飛ばしてしまうことも失敗です。繰越しは連続して申告し続けることが条件で、1年抜けると使えなくなります。
申告して得られるもの① — 還付(5年遡れる)
赤字を給与所得と損益通算すると課税所得が下がり、毎月天引きされていた所得税の払いすぎ分が戻ります。還付申告は対象年の翌年1月1日から5年間提出できるので、過去に出し忘れた年も遡れます。還付シミュレーターで目安を確認できます。
ただし青色申告特別控除の55万円・65万円を使う場合は、還付申告であっても法定申告期限(原則3月15日)までの提出が要件です。1室のオーナーが使う10万円の控除にはこの期限条件はありませんが、55万・65万を狙う場合は5年遡れる話ではなくなります。
申告して得られるもの② — 純損失の3年繰越
損益通算してもなお赤字が残る場合、青色申告なら純損失の全額を翌年以後3年間繰り越せます。白色の場合、繰り越せるのは変動所得の損失(事業から生じたものに限る)・被災事業用資産の損失・雑損失に限られ、賃貸で通常生じる赤字は繰り越せません。事前の青色申告承認申請書が前提になります。
⚠️ その代わりに背負うもの — 連続申告という「鎖」
繰越しの条件は、損失が出た年に確定申告書を提出し、かつその後も連続して確定申告書を提出していることです(所得税法70条4項)。所得がゼロや黒字で申告義務がない年でも、飛ばすと繰越しが切れます。
さらに住民税にも独自の連続申告要件があります。地方税法313条は、損失年に青色申告書を提出し、かつその後の年度分の住民税について連続して申告書を提出しているときに限り控除するとしています。所得税の確定申告をすれば住民税の申告書を提出したものとみなされる(地方税法317条の3)ので、所得税の申告を続けることが両方の条件を満たす道になります。逆に言えば、1年飛ばすと所得税と住民税の両方で繰越しを失う可能性があります。
つまり赤字の年に申告するという判断は、単年の手続きではなく数年続く流れに入る判断です。繰越しを当て込むなら、そこまで含めて決めてください。
誤解されがちな「デメリット」
「申告すると帳簿をつける義務が生じる」と言われることがありますが、これは正確ではありません。記帳・保存の義務は不動産所得を生ずべき業務を行う人に課されるもので(白色の人は所得税法232条1項、青色申告の承認を受けている人は同法148条1項)、申告するかどうかとは関係なく既に生じています。申告が新たに生む義務ではありません。
使う様式
損失を翌年以後に繰り越す場合などは、申告書第四表(損失申告用)を申告書と併せて使います(第四表(一)と(二)、および第一表・第二表)。第四表を提出する場合、第三表(分離課税用)の提出は不要です。
住民税と、会社に知られるかどうか
所得税の確定申告をすれば、住民税の申告書も提出したものとみなされるので、別途の住民税申告は要りません。なお赤字の年は、住民税の徴収方法を「自分で納付」にしても分けるべき税額が出ないという事情があります。この点は普通徴収の記事で扱っています。
損する / 得するサイン
次に当てはまるなら、申告した方が得な可能性が高いです。
- 物件を取得した年・翌年(減価償却や諸費用で赤字が出やすい)
- 大規模修繕をした年
- 過去5年に、赤字で申告しなかった年がある
逆に、翌年以降も申告を続ける前提が立たない場合は、繰越しを当て込んだ計画は避けてください。
こうすればOK
- その年の不動産所得を集計し、赤字かどうかと金額を確定する。
- 還付の目安を確認する(過去分は5年遡れます)。
- 繰越しを使うなら、青色の承認があるかを確認し、翌年以降も申告を続ける前提で判断する。
- 繰越しを使う年は申告書第四表(損失申告用)を併せて用意する。
この記事の根拠(一次情報)
| 内容 | 数値・ルール | 出典 | 時点 |
|---|---|---|---|
| 還付申告の期間 | 対象年の翌年1月1日から5年間 | 国税庁 No.2030 | 令和7年4月1日現在 |
| 55万・65万控除の例外 | 還付申告であっても法定申告期限(原則3月15日)までの提出が要件 | 国税庁 No.2030 | 令和7年4月1日現在 |
| 純損失の繰越 | 前年以前3年内。青色申告書を提出している年に限る | e-Gov 所得税法70条1項 | 現行 |
| 連続申告の要件(所得税) | 損失年の申告に加え、その後連続して確定申告書を提出している場合に限り適用 | e-Gov 所得税法70条4項 | 現行 |
| 連続申告の要件(住民税) | 損失年に青色申告書を提出し、翌々年度以後の住民税について連続して申告書を提出しているときに限り控除 | e-Gov 地方税法313条8項 | 現行 |
| 白色の繰越範囲 | 変動所得の損失(事業から生じたものに限る)・被災事業用資産の損失・雑損失に限られる | 国税庁 損失申告用の手引き | 令和7年分 |
| 使用する様式 | 損失をその年の翌年以後に繰り越す場合などには、申告書第四表(損失申告用)を申告書と併せて使用する | 国税庁 No.2030 | 令和7年4月1日現在 |
| 第三表の提出は不要 | 「申告書第四表(損失申告用)を提出する方は、申告書第三表(分離課税用)の提出は不要です」 | 国税庁 損失申告用の手引き | 令和7年分 |
| 住民税申告の扱い | 所得税の確定申告書を提出した場合、住民税の申告書が提出されたものとみなす | e-Gov 地方税法317条の3 | 現行 |
| 記帳・保存義務の発生原因 | 白色は不動産所得等を生ずべき業務を行う居住者に課され(232条1項。青色申告の承認を受けている者は除かれる)、青色の承認を受けている者は148条1項が課す。いずれも申告の有無とは無関係 | e-Gov 所得税法232条1項・148条1項 | 現行 |
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無料で試算する本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務相談ではありません。 具体的な判断は税理士または所轄の税務署にご確認ください。(令和8年7月時点の情報です)